浦沢直樹の『Monster』を読破しました。読みごたえたっぷりでおもしろかったです。彼の描く登場人物は端役でも味があって好きです。
物語は”本当の名前”が大きなテーマになっています。まったく系統は違うけれども『千と千尋』を思い出しました。名前を奪われて湯屋で働かされた千尋。余談ですが(魔法こそかけられませんが)同じような話は昔の日本にもありました。商家なんかに奉公にいくと本名は呼んでもらえず、代々その家の奉公人につけられている名前、たとえば末や清などで呼ばれることもあったそうです。
名前を奪うというのは、その人のアイデンティティーを奪うことであり、その人の過去を奪うことです。だから昔話でも悪い魔法使いは人から名前を奪うのであり、名前を取り戻す=魔法はとけます。『大工と鬼六』では名前を当てることに命をかけ、当てられた鬼六は約束通り善行をほどこします。名前を呼ばれた以上もう悪行はできない。
『Monster』の話に戻せば、本当の名前を呼ばれた怪物ヨハン(本名は作品では明らかにされていない)は魔法がとけて人間に戻ったと私は思うのです。
しかし実際にヨハンはモンスターだったのでしょうか?彼の凄惨な幼児体験。『ソフィーの選択』にもあったように、母親にどちらの子どもを連行するか、つまりどちらを殺すかを意味する選択を強いたのは誰だったのか。名前を奪い、過去を奪ったのは誰だったのか。数々の残酷な仕打ちの中で育ったヨハンたちは、むしろモンスターに生み出された被害者であり、人々を狂気へと駆り立てる戦争を企てた人間たちこそモンスターではないのでしょうか。
なかなか難しい話で十分に理解できてないところもあるのですが、以上感想まで。
