花や季節が印象的に残る小説といえば、私はなんといっても夏目漱石の『虞美人草』をあげます。今を盛りと桜が咲き誇る時期にはいつも、美しく誇り高い紫の人を思い出して、この華やかな季節も永遠ではないのだなどと嘆息するのです。
さて、総頁数約1800という長い長いお話を読みました。『沙門空海唐の国にて鬼と宴す』夢枕獏∥著。空海と橘逸勢という主要キャラは、陰陽師の安倍清明と源博雅とほぼ同じような性格と役割です。逸勢の方が博雅よりはクールで、空海は清明よりも野心家で自信家でしょうか。
空海が唐に渡り、恵果に会って密を授けられるまでの間におこる事件が中心です。楊貴妃や玄宗皇帝、李白や白楽天ほか虚実あいまざった魅力的な登場人物がいろいろと出てきておもしろいです。中国史にあまり明るくないというのも幸いして、なかなか楽しめました。陰惨な事件が続くのに、ラストは春風のように爽やかなのもいい感じ。
小説では、牡丹の花が様々な場面で効果的に使われています。これからは牡丹の季節には、美しく哀れな楊貴妃を思い出すかもしれない。花に容(かんばせ)を想うように・・・
